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2017.04.05

毎月5日は、連載「 今月の一行」

1鵜の鳴く夜は恐ろしい 2

 
 
今月の一行「鵺の鳴く夜は、恐ろしい」

会社員時代の大先輩である編集長からの依頼で文章を書くことになりました。
コピーライターという仕事で生計を立てている者であります。
 
 
このコピーライターという仕事、ひと昔前のブームによって知名度はあるのですが、
「実際のところ仕事とか言って何やってんだかよくわからん」とか、
「なんかその商品を説明する、ちょっと気の利いた言葉を書くだけでしょ」
と思われる方がほとんどだと思われます。
そこで今回は実際の仕事の流れに沿って、こんなことをやってるのです、
という一例をご紹介をしてみます。
 
 
一昨年、是枝裕和監督の映画「海街diary」のコピーを書きました(※)。
仮編集の映像を見ながら僕が感じたのは、
この物語には「形見」がいっぱい出てくるなあということで、
まずはそのことにいろいろと個人的な思いを重ねていました。
  ※「海街diary」はこんな映画です by KRAZy近藤→http://umimachi.gaga.ne.jp
 
 
たとえば、小中高と同じ学校に通った親友が23歳の時に亡くなったのですが、
あれから20年経った今も、同窓会になると必ずそいつの話になります。
話していると「今日はたまたま来られなくなっただけ」な感じさえする。
20年以上会っていないけど、他の同級生にだってそんな人はいっぱいいて、
その人たちははまだどこかで(しかもおそらく地元で)生きているだろうけど、
亡くなった親友以上に長いこと会っていなかったりする。もっと縁遠い。
死んでしまった友人の方が多く思い出され、多く話題になり、励みになったり、
人生に影響したりする。じゃあ果たして、死んでしまうって何なんだろう。
 
 
昔からそんなことを時々考えるのですが、この映画にも、そんなメッセージが
含まれているよう感じました。いなくなったお父さんの好きだった食べもの、
好きだった釣り、亡くなったおばあちゃんが作った最後の梅酒。まだまだ
他にもたくさんの「もういない人が遺した何か」が海街には登場します。
 
 
また、映画の公開は2015年公開ではありますが、2011年の震災で
近しい人をたくさん失って喪失感がぬぐえていない人がまだまだ沢山
いるんだろうなという思いもあり、裏コンセプトとしてそういう人たちの
救いにもなれたらいいなと考えた僕はまず、こういうコピーを書きました。
 
 
「会えなくなっても、人はいなくなったりしない。」
 
 
もちろん他にもコピーは出していますが、これをおすすめにしたのです。
すると、是枝監督と配給会社のギャガさんから返しがありました。監督からは、
「たしかにこういうお話なんだけど、もうちょっと四姉妹の視点で書かれた
コピーがいいかなあ」というもの。ギャガさんからは「映画の宣伝コピーは、
その映画の設定をコピー化した方がお客さんの興味を引くことができるので、
そうしてほしい」というものでした。また「この映画の興行収入の目標は
○○億円なので、そこから逆算すると全国○○館の映画館でこれくらいの
集客を達成せねばならず、ということは○歳から○歳くらいの年齢層の幅で
男女ひとしくこれくらいの人数に見てほしいので、あまり限られた人だけに響く
とがった表現というよりは普遍的で理解しやすい言い回しが望ましい」という
非常にロジカルで参考になる返しもありました。
 
 
さて、ここからが本格的に、コピーライターの仕事です。
 
 
監督の言葉は「俯瞰した第三者の言葉より、当事者の視点から書かれた
言葉の方が物語への没入感が出せる」ということなのかな、と解釈しました。
映画を見終わった後の読後感として残すべきところをコピーで先に言ってしまって
いいものか、という問題もあるなと思いました。
 
 
一方でギャガさんの要望は「設定のコピー化」ですから、「誰々が何々をする物語」
とか「どこどこで何々がある物語」という「俯瞰のコピーを書く」作業になります。
 
 
没入感と俯瞰の両立となると、これはもう真逆の作業になってくるので、
僕は悩んでしまいました。しかしこの悩みは、直しに対する僕の「解釈」が
矛盾してしまったことによるものであり、そもそも「解釈」が間違っている
という可能性もあります。こういう時は、矛盾した二つの解釈から
ボトムアップで理論的に考えていっても答えは出ないので、過去の事例から
ヒントになりそうな物を探します。そこで思い当たったのが、1977年に
公開された角川映画「獄門島」のコピーでした。
 
 
「鵺の鳴く夜は、恐ろしい」
 
 
横溝正史原作のホラー映画で、ビートルズの「Let it be」を使ったCM。
当時の角川映画は広告も名作が多く、このコピーも子供の頃に見て強烈に
印象に残っていたのです。そしてこのコピーは登場人物の主観でありつつ、
その映画の設定をコピー化したものだということに気づいたのです。
 
 
とりあえず「没入感と俯瞰の両立」だかなんだかわからんけど、不可能では
なさそうだ、ということがわかりました。これがすごく重要なんです。
「どうにも無理なんじゃないか」と思ったままだと、書けるはずの言葉も
出てこなくなってしまうので、なんかよくわからんが書けそうだ、たぶん
最初の自分の課題設定が間違っていただけなんだ、と思えることがまず大事。
それができないと、ものすごく深い袋小路に迷い込むことになります。
 
 
また、「設定のコピー化」という作業にはコピーが取扱説明書化するというか、
無味乾燥な「説明文」に終わりがちな難しさがあるのですが、獄門島のコピーは
設定のコピー化であっても行間から湧き出るような恐ろしさを表現できる、
というお手本になってくれました。とはいえ、海街はホラーではないので、
行間から湧き出るのは「恐ろしさ」ではない何かであるはずですが。
 
 
果たして。紆余曲折を経て、最終的に決定したコピーは、
 
 
1鵜の鳴く夜は恐ろしい 原稿用紙
 
 
「家族を捨てた父が、のこしてくれた家族。」
 
 
というものでした。四女のすずちゃんを見る、三姉妹の視点で書いています。
無味乾燥な説明文にならないよう、父の「捨てる」「のこす」という真逆の
行為を一本のコピーに入れる、というレトリックを用いています。ちなみに
これは「撞着語法」というもので、わりと王道系のコピーワークと言えます。
広告の名作で言うと「オロナミンCは小さな巨人です」の「小さな巨人」が
撞着語法ですね。矛盾を孕んだ言葉で「?」と思わせて印象に残す手法です。
 
 
このコピーの他に、海のある街で四姉妹がひとりひとり悩んで成長する姿が
描かれていくこと、そしてアートディレクターの森本千絵が海の街を気持ちよく
表現したビジュアルを制作しているのを横目で見ていたので、
 
 
「同じ海、それぞれの波。」
 
 
というコピーも出していました。コピーはビジュアルとの掛け算で生きたり死んだり
するので、もし水彩っぽい海街ビジュアルで行くなら、こういうコピーもあるぞ、
という作業もします。採用案よりちょっと俯瞰(四姉妹からの視点でない)ですが、
掛け算の強さで突破するという方向性です。最終的にポスターのビジュアルは
海の街を表現したビジュアルでなく出演者が大きく写ったものになったので(これも
大変大事な決断要素です)、登場人物の言葉に近い言葉の方が相性もよかった。しかし
改めて見てみると、こっちのコピーも撞着語法ですね。
 
 
とまあこれはあくまで一例で、担当する業種、商品、使用する媒体(TVなのか、
WEBなのか、ポスターなのか)によって仕事の仕方は様々です。
ここには書かれていないですが、多くの場合は市場分析や競合商品の分析から参加しますし、
「気の利いた一行」というやつが世に出るまでには思いのほか
長いプロセスを経ているものです。
 
 
そんなわけで今月の一行は「鵺の鳴く夜は、恐ろしい」でした。
海街のコピーに関する話ですが、この一行に出会ったことが、
大きなターニングポイントになったからです。
インスパイアされるというのはこういうことであって、
元ネタにそっくりなものを作ることではありません。
なので、僕は「インスパイア系」という言葉を使っているグルメ記事には
非常に大きな違和感を感じます。
「獄門島」のコピーと「海街diary」のコピーは似ても似つきませんが、
間違いなくあのコピーにインスパイアされています。
元ネタと言ってもいいです。元ネタは、言われなきゃわからないから「元」なんです。
だからその手の記事を読んでいても、「リスペクト系」という言葉を使うライターの
方が信用できる気がしますね。
なんで急にこんな話になってんだかわかりませんが。
 
 
という感じで、コピーライターと呼ばれる人たちが普段どんなことをしているか、
多少なりとも伝わればと思い書きました。
ぼーっとして何もしていないように見えても、実はこんなことを考えているのです。
そういうことにしていただけると幸いです。
 
 
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林 裕  Yutaka Hayashi
神奈川県鎌倉市出身。1995年慶應義塾大学環境情報学部卒、同年株式会社博報堂入社。2011年独立し、株式会社クラブソーダ設立。主な仕事に、田辺製薬「一本いっとく?」、CCJC「大豆ノススメ」、NTT東日本「エヌ山くんとティティ川くん」、SIREN:NT「羽生蛇村を求めて」、AKB48「前田敦子とは何だったのか?」、サッポロビール箱根駅伝「抜いてみろ。抜けるものなら」、海街Diary「家族を捨てた父が、のこしてくれた家族」等
林顔写真
 
 
 
 
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発行責任者:近藤正之

 

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