2017.11.09
毎月5日は '今月の一行' /「天国にいちばん近い島」
今月の一行「天国にいちばん近い島」
1966年に出版された森村桂の著作「天国にいちばん近い島」で語られたことから、この言葉はニューカレドニアを指し示す、と一般的には思われていると思います。私の場合、知ったきっかけは原田知世主演の角川映画でしたが(内容は全然違うそうですね)。
この「天国にいちばん近い島」みたいなコピーはNGである、と言われたのが某航空会社の仕事を手がけていた入社一年目でした。曰く、「縁起でも無い」と。お客様が天国に行く=飛行機事故を想起させる、ということで、こういうコピーは得意先NGなのだと。
いったい誰が、それもこれから旅行に行くプランを立てようとしているウキウキ気分の人間が「天国にいちばん近い」と言われて死をイメージするというのだろう。本当にその配慮は必要なのか?と思うのですが、しかし、このような「忖度」は広告の世界では日常茶飯事なのです。
そもそも広告制作の現場は禁則事項が異常に多い現場で、たとえば、ジュースやビールを飲むタレントの指は5本見えていないといけない、というものがあります。普通に持てば缶の裏側にあるはずの指であっても、強引に指を表側に持ってきて見せる。すべての指が見えていないと差別にあたる、ということらしいのですが、誰が言い出したのかわからぬまま業界の慣習として定着しています。これに関しては、むしろ逆に問題があるという話も経済産業省の集まりで出ていたようですが。
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2011fy/E001474.pdf
栄養ドリンクを飲んでから走ってはいけない、みたいな例もあります。
これは広告の規制の中でもメジャーな「薬事法による規制」というもので「これを飲んだら誰でも走りたくなるほど元気になるという効果効能を約束するかのような優良誤認を与える」という理由です。優良誤認という言葉もまた頻出用語で、「実際より良く見せる」という意味です。医薬品や医薬部外品のみならず、トクホや機能性表示食品などの食品系に至るまで、厚生労働省の管轄内にある商品は「認可された効能をそのままの文言で」アピールすることを義務づけられており、これを守らない企業に対して、厚生労働省は広告の中止命令を出すことができます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/koukokukisei/index.html
他にはコピー関連で有名な、最上級表現の原則禁止があります。
これは「最高」や「究極」という言葉を誰でも使えるとまずいので、No.1表現に関してはデータの裏付けを明記しないといけない、というルール。1962年に公正取引委員会が定めた「不当景品類及び不当表示防止法」というものがありまして、これは2009年に管轄が消費者庁に移管されるのですが、非常に長いこと「公正取引委員会のルール」であったため、今も現場では「公取マター」という言い方をよくします。
このルールに関してはもう一つ有名なことがあって、もちろん誰でも「究極の走り」みたいなことを言えるとまずいのは事実なのですが、「究極の走りへ。」のように「へ」を入れると、規制対象外なのです。
究極の走りに向かって頑張ってる最中だ、なら誰でも言えますから。なので、大きな広敷を広げながら「へ」で終わるコピーというのが世の中にはちょいちょいあります。探してみてください。特に広告のネタは無いのだが、媒体だけは年間で押さえているので何か広告を作らないと、みたいな時に発生しがちな事案です。
そして最後の難関が「局考査」。テレビ局による考査です。
これがまた局や担当者によって基準が違ってくるため、あちらでは流せたのにこちらでは流せないみたいなことが時々起きるので、そうなると、考査が通らなかった局用に別バージョンのCMを編集したりします。
局考査でよくあるのは、テレビ番組風に作った時に「これはCMです」という文字を入れなさいとか、この業種のCMは流せませんとか、残酷な映像はダメです、といったようなこと。誤解させないこと、不用意に人を傷つけないこと等、たまたまそこだけ見てしまった人が不利益を生じないような配慮というものが、そこにあるわけです。
今まで書いたのは主にマス広告におけるルールなのですが、これに加えて、最近ではWEB広告独特のルールがあります。Googleや
Yahoo!の検索キーワードに応じて表示される広告、いわゆる「リスティング広告」というものがあるのですが、これに関しては
さらに厳しく、「?!」や「!!」といったような表記が不可になります。また、Yahoo!では「同じ記号の使用は3回まで」としています。ビジュアルが使えず文字だけで作る広告では記号や繰り返し表記でインパクトをつけるしかなく、「なんと!いま!この価格で!!」みたいなことになっていくらしく、これが規制されているようです。
ちなみに筆者はリスティング広告を手がけたことがなかったので、今日知りました。見ている側は気づかない。そんなもんですよね。でも、作り手側は、わりと人知れず規制と戦っているのです。
しかし、「!」は3回しか使えないというルールには驚きました。だって、楽天の店の中のページとか、そんなんばっかですよね。
800回くらい使ってるページありますよね。無闇に長いし。ああいうのが規制されてないのはどうなんだろうと思いますが、ECサイト内の規制も、時代につれて変化していくのでしょう。
そんな中ニューカレドニアは、今どんな言葉で広告しているのか気になって調べてみたところ
「南の楽園ニューカレドニア」でした。
南の楽園かあ。そうかー。
こうやって改めて眺め直してみると、
「天国にいちばん近い島」って、旅に出たくなる言葉だよなあ。
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林 裕 Yutaka Hayashi
神奈川県鎌倉市出身。1995年慶應義塾大学環境情報学部卒、同年株式会社博報堂入社。2011年独立し、株式会社クラブソーダ設立。主な仕事に、田辺製薬「一本いっとく?」、CCJC「大豆ノススメ」、NTT東日本「エヌ山くんとティティ川くん」、SIREN:NT「羽生蛇村を求めて」、AKB48「前田敦子とは何だったのか?」、サッポロビール箱根駅伝「抜いてみろ。抜けるものなら」、海街Diary「家族を捨てた父が、のこしてくれた家族」等
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